読む人・書く人・作る人 パスカルの『パンセ』 書斎の片隅に三木清の『。ハスカルに於ける人間の研究』 ( 岩波 図書晒号目次 書店刊 ) がひっそりと鎮座している。昭和七年に発行された第 。ハスカルの『。ハンセ』 塩川徹也 四刷である。戦後の核家族の走りであった我が家に本はほとん 也 数学を学び直す人びと 中村滋 どなかった。その中で亡父が大事にしていたこの本は異彩を放 っていた。父は昭和十年前後の大学生であったが、文学や哲学ピ , ピの国の児童文学に広がる「暴力」三瓶恵子 徹 〈対談〉 真鍋真 を専攻したわけではなく、経済学部を出て民間企業のサラリー ダーウインの肩に乗って渡辺政隆 マンとして一生を送った。『。ハンセ』をひもといた形跡はない あの頃 石坂和子 し、子供時代に。ハスカルの名を父の口から聞いた覚えもない。 しかし息子が実学に背を向けて。 ( スカルにのめりこむのを心配出版創業者たちの物語 ( 上 ) 円満字一一郎 「死んだらどこへ行くのかと嘆くな、 しながらも、父はどこかで喜んでくれていたような気がする。 色川大吉 塩 ア 1 ナンダよ」と釈尊は戒める 『。ハンセ』は宗教と哲学の古典中の古典だが、。ハスカルがそ チャイナドレスのアメリカ川崎賢子弭 のような題名の本を書き残したわけではない。それは、彼の残 師岡カリーマ・ オリープの海に浮かぶ した未完の原稿類を関係者が編纂して〈書物〉に仕立てたもので ・ハタ 1 の孤島に思うことエルサムニー あり、三世紀半に及ぶ刊行の歴史の中で変貌を重ね、その変貌 2 016 年のヒロシマ高村薫 は今なお続き、いっ終わるともしれない。読者は不完全で脈絡 リアリティ 1 センサ 1 は働いているか三浦佳世 の見えにくいテクストを前にして最初は途方に暮れるだろう。 墓石に刻まれた暗号 若松英輔 しかし、ひとたびそこに響き渡る。ハスカルの呼びかけに心を動 柄谷行人 かされると、人間。ハスカルと彼のメッセージに何とかして近づ双系制と原遊動性 斎藤美奈子 きたいと希うようになるに違いない。そうだとすれば、翻訳者文庫解説を読む幻 に課された使命は、原典の字面と著者の意図の両方を踏まえ、 封印された船、あるいはうつろな舟池澤夏樹 4 読者のためにパスカルとの人格的交流の可能性を開くことであこぼればなし ろう。このたび拙訳で岩波文庫に初登場した『。ハンセ』 ( 全三 八月の新刊案内 冊 ) がその使命に少しでも貢献できればと願っている。 ( しおかわてつや・フランス文学 ) ( 表紙解説伊知地国夫 ) ( カット高橋好文 )